生徒さんの曲選びについて、私の基本方針はけっこう単純です。ジャンルは問いません。楽譜(ピアノ譜もしくはコードネームのあるもの)さえあれば、何でもOKです。レベルは問います。練習をしないなら今の腕で楽しめるレベルの曲を選ぶ、今の腕より高めの曲を選ぶなら練習する。
たいていはこれで大丈夫なのですが、困るのが「練習はしないけれど難しい曲をしたい」タイプの方。
もうずいぶん前のこと、「初級の上」レベルの生徒さんが、かなりしっかりしたジャズのアドリブの楽譜を持って来られました。楽譜に付いていたCDを聴いてみて、いいなと思ったとのこと。でも、とてもではないけれど、この方の手に負える曲ではありません。初老になってからはじめた方で、幸い音はあまり苦労せずにスッと出たのですが、譜読みや地道な指の練習などはお嫌いです。ご自分でも「昔からコツコツ努力するのは苦手」とおっしゃるほど。
同じ曲の簡単バージョンがあったので、提案しましたが、お気に召しません。「ちょっと吹ける程度になればいい」と言われても、「ちょっと吹ける程度」になるのも大変そうです。「そうとう練習しないと無理ですよ」と申し上げて、「練習します」とおっしゃいましたが。。。
どうやら、CDの「見本演奏」を鳴らしながら一緒に吹いて、それでたっぷり練習した気分になるらしいのです。さらには「すっかり吹けるようになった」気分になってレッスンに来られるのですが、いや、吹けてませんから……(涙)。
一計を案じて、難しいところの音符を減らし、リズムを緩めて、雰囲気を残しながらの「簡単バージョン」を作りました。それをカラオケ版と一緒に見本演奏してみせると、これならOKとおっしゃるし、ほどほどの練習で何とかなりそうだし、ではこれで、と思ったのですが。。。
いやはや、本当に練習嫌いの方でした。私の見本演奏を録音して帰り、それを聴きながら(すなわち耳にイヤフォンを入れたまま)合わせて吹いて、やっぱり吹けた気になってお越しになるのです。一人で吹いてみると、当然ながらボロボロです。
正直、参りました。その曲は好きに楽しんでいただいて、レッスンでは基礎的なことをやろうと思っても、その曲がしたいとおっしゃるし、でも「ゆっくり、きっちり」の基本的な練習法を説明しても、頷いてくださるのはその場だけ。上手になる魔法があるなら喜んでかけて差し上げますが、私にできるのは、ご本人ががんばるのを手助けするだけ。練習しない方を上手にする術はありません。
けっきょく、それから間もなくお辞めになりました。ご自分ではずいぶん上達したおつもりだったみたいだったから、それはそれでよかったのでしょう。なんだか力が抜けましたけれどね……(苦笑)。