神戸大学都市安全研究センター オープンゼミナール
第158回 3月24日(土)14:00~17:00 神戸大学工学研究科(C1-301)
1) 東日本大震災における民生・児童委員の行動実態から考える災害時要援護者の効果的な避難支援の可能性について
西野智研: 神戸大学大学院工学研究科 建築学専攻 助教
心身の障害や体力的な衰えなどによって,災害時に一般の人々と同じような行動をとることができない人々を,安全な場所まで避難させるには,行政職 員や地域住民の介助によって,避難行動を支援することが重要になる.しかし,支援側が緊急な避難を必要とする場合には,自分やその家族を避難させ ることで手一杯となり,支援活動に時間を割くことができなかったり,一方で,支援活動に従事する余り,安全に避難可能なタイミングを逸し,両者と も命の危険に曝されるといった事態も懸念される.こうした問題を解決するには,他人の支援と自身の避難という相反する要求を同時に満たすことが可 能な十分条件を特定し,事前の避難支援計画に組み込んでおく必要がある.しかし,そもそも支援の役割を担う人のどの程度が,実際にその活動に従事 することができ,要援護者をどのように避難させるのか,といった個別の支援実態については定かでなく,支援の可否を左右する要因について,十分な 分析はなされていない.本報告では,一般的に要援護者の避難支援の役割を担うことの多い民生・児童委員に焦点を充て,2011年の東日本大震災に おける19名の委員の行動実態を聞き取り調査等から把握した内容について紹介し,避難支援が効果的になされるための条件について考えていく.
2)大規模災害に際し、障がい児(者)が遭遇する諸問題への対応-コミュニティに基盤を置いた支援・インドネシアでの経験を交えて―
高田 哲: 神戸大学大学院保健学研究科 地域保健学領域 教授
生命に危険を感じるような深刻な体験と遭遇し,激しい恐怖や無力感を経験した後には,1)悪夢やフラッシュバックなどの再体験症状,2)特定の場 所や人物を避けようとしたり,記憶が欠如するなどの回避症状,3)不眠やイライラ感などの覚醒レベルの上昇など様々な症状が現れる.これらの3症 状が1ヵ月以上持続し,日常生活に支障をきたす状態をPTSDと呼んでいる.しかし,小さな子どもや障がいのある人々の症状を捉えることは大変難 しい.これは,1)時間の概念が未発達であること,2)自分自身の気持ちをうまく言葉で表現できないこと,3)生じた事象との因果関係がわからな いことなどによっている.阪神・淡路大震災の経験から,幼児や障がいを持つ人々に長期間にわたって認めやすい症状は,「地震について繰り返し話 す」,「暗い所を怖がる」,「イライラして興奮しやすい」などであることが明らかとなっている.今回の発表では,阪神・淡路大震災での経験及び私 たちがインドネシアの被災地で行ってきた活動を紹介し,被災地における中・長期的な課題について考えてみたい.