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おしまいの噺

名人と謳われた古今亭志ん生。その暮らしぶりを長女が書いた「おしまいの噺」を読みました。

いやはや、人間失格ではないかと思うほどの放蕩ぶりです。稼いだお金はぜんぶ自分で遊んでしまい、家のものを端から質に入れてしまう。家族のものはもちろん、奥さんが内職で預かった仕立物さえ持って行ってしまう。

とにかく恐がりで、地震でも空襲でも真っ先に逃げ出したけれど、関東大震災のときには逃げ込んだ先が酒屋で、そのまま飲みだしたとか。酔って高座に上がって寝ちゃったとか、危篤状態から奇跡的に目覚めた最初の言葉が「酒くれ」だったとか、まるで落語の登場人物のようですな。

一方で、落語の稽古は欠かさなかったそうな。子どもたちが家にいると「父ちゃん、稽古すっから、遊びに行きな」と外に出し、2時間、3時間と練習するのだそうです。

父のそういう姿を見ていたから母も苦労も厭わなかったのだろうとは、著者の弁。確かにね。私も、放蕩なだけならとっとと逃げ出すでしょうが、この人にはこれ!というものがある、才能がある、真剣に打ち込んでいると感じられたら、支えようとするでしょうね。ましてや、どんなに遊びほうけても、結局は奥さんが一番という人ならば。

貧乏の桁も半端ではありませんが、ずいぶんできた奥さんだったようで、愚痴もこぼさず、夫の悪口も言わず、女女男男の4人の子どもを育てあげ、著者が「うちは楽しい家だと信じていた」と言うほどですから、大したものです。

長女以外は芸の道に進みます。次女は三味線、そして息子たちは落語。地味ながら品と奥行きのある芸風の金原亭馬生と、早くから名人の呼び声高かった古今亭志ん朝。私、どちらもとっても好きなのですが、この二人がまたよく勉強も稽古もしたそうな。

年老いて、まず奥さんが亡くなり、志ん生が逝きます。やがて次女が亡くなり、ついで馬生、そして歳の離れた末弟の志ん朝さえも・・・。でもこの本は、最後まで明るい流れでさらりと読ませてくれます。夫婦、親子、姉弟、そして師弟の関係は、笑わせておいてホロリと落とす落語の人情話のよう・・・。

今度は志ん生の「びんぼう自慢」を読んでみなくては!

by akirako-hime | 2010-02-11 09:17 | 音楽無縁的独白